研究背景
2014年のノーベル化学賞以来、ナノの解像度を目指す超解像度光学顕微鏡の開発が世界中で進められていますが、これらの手法では、①強力なレーザ光照射の細胞への影響、②特殊な色素の必要性、③長い画像取得・解析時間(数分〜数時間)、④高額な装置といった様々な問題が指摘されていました。空間分解能に関しても、Z 軸方向100nm以下のナノ界面領域の観察は極めて困難であり、また高解像度と高速イメージングの両立はできておらず、生細胞内の分子レベルでの動態を観察する手法がこれまではありませんでした。
研究の目的
我々はこれまでの研究で、金属ナノ粒子の自己組織化膜からなる局在プラズモンシートを蛍光イメージング基板として用いることで、光閉じ込め効果により、世界最薄(~20nm)の実時間高解像度イメージングが可能であることを明らかにしてきました。本研究では、このイメージング法を生細胞の接着界面における分子レベルでの動態観察に応用し、幹細胞の分化評価やがん細胞の悪性度診断など、基礎生化学・医学分野の重要な課題に対して、新たな情報を提供することを目指します。さらにこのイメージング技術を機械(深層)学習と組み合わせることで ハイスループット細胞活動診断システムとして完成させることを試みます。
研究計画
課題1:高解像度高速ライブイメージング用局在プラズモンシートの作製 (2019-2021)
高解像度高速ライブイメージングの実現に向けて、さらに安定で且つ強力な電場形成を目指し、ナノロッドあるいはナノディスク等の異形ナノ粒子の合成と自己組織化を行います。電場増強効果を最大にする構造最適化は電磁気計算によって実施します。
課題2:細胞接着ナノ界面の構築と界面における分子ダイナミクスの直接イメージング (2019-2022)
細胞接着界面での分子レベルでの動態活動の可視化のためのライブセルイメージングシステムを構築します。さらに細胞ダイナミクスを故意に誘発する手法の開発や、接着斑のZ 軸方向の変位や接着牽引挙動を検出するメカノバイオロジー研究を遂行します。
課題3:幹細胞・がん細胞のハイスループット観察 (2022-2023)
ナノ界面の高解像度高速イメージング技術を、幹細胞ならびにがん細胞の分化評価、再生医工学における活性診断基材等のスクリーニング等に応用します。最終年には高画質・ハイスループット画像を機械(深層)学習と組み合わせ、細胞接着ナノ界面のハイスループット自動解析システムとして完成させることを目指します。